社会主義時代のユーゴスラヴィアでは、スポーツは、多民族国家としてのユーゴスラヴィアの諸民族の融和や統合を象徴するものとしての役割を求められていた。諸民族の平等と融和を象徴するスローガンが「友愛と統一」であったが、まさにスポーツは、この「友愛と統一」を体現する存在として位置付けられたのであった。社会主義時代に国を挙げて、サッカー、バスケットボール、ハンドボール、水球といったチームスポーツに力を入れたのも決して偶然ではないだろう。異なる民族に属するメンバーからなるひとつのユーゴスラヴィア・チームが世界で活躍する姿は、まさに社会主義政権がその拠りどころとした価値観を体現するものだったのである。そして人びとも、ナショナルチームの国際的な舞台での活躍を、民族を超えて支持していた。多民族国家ユーゴスラヴィアにおいてスポーツは、大衆音楽や娯楽映画などの大衆文化と並んで、民族を超えたユーゴスラヴィア的基盤を持つものとなった。