アメリカにおける近代スポーツの発展史でよく取り上げられる競技に、ボクシングや長距離競走(ペデストリアニズム)がある。ボクシングは18世紀から19世紀にかけて「ブロートン規約」や「クイーンズベリー・ルール」を採用することによって、腰より下の攻撃の禁止や、グローブ着用や10カウントKO制によって、競技者の身の安全を高めようとした。この過程で素手による殴り合いのプライズ・ファイトから、近代スポーツのボクシングへと進化を遂げた。長距離競走は労働者階級出身の選手でも数万人の大観衆の注目を浴び、大金を稼ぐことを可能にした最初の競技である。けれども、アメリカ初の近代スポーツは、組織化、規則化、広報、記録処理などが行き届いた繋駕競馬(図4)であるとされ、1825年から1870年に全盛期を迎えた。単馬競走からなる競馬に上流社会の趣味的色彩が強かったのに比べ、繋駕競馬は庶民的なスポーツでもあった。