アメリカによって構築されたシステムであるアカデミーが、マイナーリーグの末端に位置づけられ、プロ野球選手の入口となっている状況は、ドミニカがアメリカに従属しているように映る。
しかし、ドミニカ人がどのように野球と関わっているのかに注目すると、それとは異なる見方が浮かんでくる。
各アカデミーは国内全土にスカウトを派遣し、17〜20歳までの優秀な野球少年を発掘し、トライアウトを受けさせる。
合格した少年には契約金が支払われるが、金額は平均で270万円に上る。
貧困層の月収が2万円にも満たないことを考えると、少年やその家族に与える影響の大きさは容易に想像がつくであろう。
彼らは毎日、家の近くの野球場でコーチのもとで練習に励む。
無償で練習につきあうだけではなく、めぼしい選手がいれば自宅に住まわせ、食事やプロテインを与える。もし、少年の中からアカデミーと契約するものがでれば、契約金の20%程度を報酬として受け取ることができるからだ。
彼らを野球に駆り立てる原動力となっているのは、地元出身の大リーガーの存在である。どの地域にも、現役もしくは引退した大リーガーがいる。彼らは膨大な額の契約金を家族はもとより、出身地の人びとのために使う。クリスマス・プレゼントや野球道具に加え、村の祭りを開催する資金を提供する選手や災害からの復興費用を支援する選手も少なくない。
「神のおかげ」で大リーガーになることができたのだから、神への恩返しのために地元の人びとを助けるのは当然だと考えるからである。
そうした振る舞いは、彼らが所有する豪邸や高級車のイメージとあいまって地元の子どもたちに強い憧れをもたらし、新たな大リーガーを再生産する大きな要因となっている。`