ムスリムのスポーツ中でも忘れてはならないのがレスリングである。特にイランではレスリングが盛んで、「ズールハーネ」と呼ばれるジムで競技されてきた。ズールハーネとは、ペルシア語で「力の家」を意味するドーム型の施設である。建物の内部に入ると、半地下に八角形の床があり、この上で、トレーニングと競技が行なわれる(図3)。ムスリムでない者、女性、思春期前の男子は、伝統的に入場が禁じられていた。トレーニングの際には、軽快な太鼓に合わせて、腕立て伏せを行なったり、棍棒のように巨大な木製のアレイを持ち上げてぐるぐると廻したりして鍛錬をする。こうしたトレーニングに加えて、組み合ってレスリングのように格闘することも盛んだった。近年の研究によると、競技者の職業は様々で、例えば19世紀のズールハーネを調査したところ、館長やプロの競技者の他に、職人、商人、軍人、農民、貴族、教師、さらには詩人などもいたという。