場所は東大駒場15号館。4階と聞き、廊下で偶然お会いした石川先生に入り口を訪ね入室。入ってみたらほぼ満席で、それまでの発表の熱気が残っているのを感じながら、わずかな残席を見つけた。
2019年12月28日に、「第7回生態進化発生コロキウム」という会が行われることをSNSで知ったのはその前日だった。小社一色出版の出版分野と合っており、知っている方も参加しているという理由で急きょ取材に。
上記のように多くの視線を浴びながらそれぞれが発表していくが、こういう機会も多いせいか、発表者にはまだ学生の方もいたにもかかわらず、その話ぶりに淀みはなく、時に笑いも交えるほどの「遊び」とともに解説していくのは本当に感服した。
ただ、なによりも印象的なことは、発表者がみな、自分の研究がいかに面白いかを、語らずとも言葉の抑揚や表情からよく分かること、そして聞いている方も研究テーマに違いはあれど、研究上の障害や苦労、楽しさに大きな共感を得ながら聞き入っていることだった。より規模の大きい学会などでは経験できない時間を、そこにいた大勢が共有していたのではないだろうか。
このような会の始まった経緯などをお聞きしたく、閉会後に発起人のひとり、石川麻乃先生(国立遺伝学研究所 ゲノム・進化研究系 生態遺伝学研究室)にお聞きしてみた。
“非モデル生物研究者をつなぐコミュニティがあったらと”
ー今回でこの会、生態進化発生コロキウムは7回目ということは、7年目ということですかね?
石川先生:はい、7年目です。わりと長くやっていますね。
ー発起人は石川先生ですか?
はい、私(石川麻乃先生)と双子(石川由希先生、名古屋大学 大学院理学研究科 生命理学専攻)のふたりで始めましたね。
ーしかし、オーガナイザーに「石川」という二人の名前があったのは偶然かと思いましたが、双子だったのですね。研究分野もほぼ同じというのは珍しいですね。
珍しいと思います。もともと同じ大学(北大)、もっと言うと同じ研究室出身で、ふたりとも進化生物学をやるようになりました。
ー石川由希先生は昆虫を扱っていますが、石川麻乃先生は魚ですよね?
実は私も昆虫を扱っていました。学位論文はアブラムシをテーマにしたものです。
ーその後、魚を扱うようになったと。
はい、その後、もうちょっと遺伝子の機能解析ができる材料がないかと調べていたら、トゲウオが面白いと思って、そこでその研究を始めました。
それに自分のモチベーションの細かい話を言うと、遺伝研(静岡県三島市)に行くと都市からやや距離があるのでコミュニティ作りに大変かなと。
自分もそうですけど、非モデル生物を扱う人って、細かい技術をシェアすることによって実験が進んだり、モチベーションが高まったり、ヒントが得られたりするので、そういうコミュニティが作りたいなという思いがありました。それがこの会の設立にも繋がったのだと思います。
ーなるほど、コミュニティ作りを目指していたのですね。具体的に共同研究などに発展したケースもあるのでしょうか?
この会を始めて2、3年目の頃に共同研究をスタートしていますという話は聞いたことがあります。
ーところで非モデル生物となると生き物全般をカバーしていますが、特に傾向はあるでしょうか?
昆虫は例年多いですね。逆に植物は少ないかな。。。(笑)
ー進化発生だけでなく、生態の話題も多く演目に入っていますね。
会の発表順で前半は生態学の話になっていますね。あと、脊椎動物の進化生物学も前半のパートになっています。
“「これだけを扱っています」ではなくて、いくつかの分野をまたいで”
ーで、無脊椎動物は後半部分にと。
はい、発生については生理機構、つまり体内で起こっていることまで含めています。
生理機構が生態やエコロジーという文脈のなかでどういった進化をしてきたのか、お互いの相互作用を含めて扱っています。
それらがあって私たち生物の多様性は生まれていると思うので。進化だけ、発生だけ、生態だけ、ということじゃなくて。
それらを相互につないだ研究をしている人たちに集まってもらっています。
「これだけを扱っています」ではなくて、いくつかの分野をまたいでやっている人たちが集まったら良いのではと思います。
それに、次世代シークエンサーが普及する前は、モデル生物と非モデル生物の研究はお互いかけ離れたところがあって、そこを繋いでいかないと生物をきちんと理解できないという考えもありましたね。
ーそういうことでしたか。「進化発生」と聞くと「生態」とは別の話題かなとも思いましたが。
進化と発生も結局自然界で起こっていることのなので、別の分野として切り離さないで理解していかないと。
いまむしろ生態学の人の方がゲノム情報を使い始めているので、すごい強いんですよ。数理を使える人が多いので。
私が学生の時に生態学会に行って「遺伝子」と言うと、遺伝子で生態学の何がわかるんだと言われたけど、今はみんなやっていると言えるんじゃないでしょうか。
“ノリが合うと自分も試してみようということもありますね”
ー新しい切り口ということでは、機械学習を取り入れている人も出てきていますよね。
今回も機械学習の発表をされた人もいました。まだよく中身が周知されてないせいか、批判的な声もあるようですが。。。
ただこの会の良いところは、そういうことでも積極的に取り入れていこうと。やはり使ってみないと分からないですから。そういう未知の手法も誰かがこっちの昆虫で使っていると言うと、じゃあこっちの魚にも使えるかもしれないということになってくるわけで。
モチベーションを高めあうところもありますし、研究者間のノリが合うと自分も試してみようということもありますね。
それに、論文を読んで理解するのではなくて、研究している本人に直接聞けるということも大きなメリットと思います。
「このソフトどういう風に使うの」とか、「解析はどういう風にするの」「どのようなデータセットを揃えればいいの」とか。直接交流することの大事さは代え難いですね。
特に若い人がモジモジしていると、業界自体の萎縮を生んでしまうかもしれないですし。若い人たちがやっていると、上の人たちも、「お、こうしちゃいられない」と感じることもあるはずです(笑)
ー好影響が波及しそうですね。これからこの会はどのように進んでいくのでしょうか。
具体的に何かあるわけではないですが、細く長く続けられたらいいなと思っています。
ーネット上でもっと発信して、より多くの人に参加してもらおうというほどでもないと。
まあ細く長く。例年参加者は50人くらいですが、交流できる範囲も考えるとこの程度かなと。規模が大きくなったらなったで考えたいと思います。
もともとのこの会の発足事情ですが、北大にいた三浦徹(現、東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所教授)先生を中心に忘年会をやっていて、毎年集まるたびに、一年間どんな研究をしていたのかということ常に話題にのぼっていました。
ただ一人ずつ同じ説明するのも大変で、だったら先に集まって活動の説明をして、それから飲み会にという流れにしようと。
最初はそのくらいの感じでやっていました。ただ、いろいろな人が集まるようになって、今のような形にいたったというわけです。
ー今後、面白い現象を集めて一冊の本にできれば良いかもしれません。寒い中有り難うございました。
こちらこそ有り難うございました。
本会のオーガナイザーであるお二人には以前、本の執筆をお願いしたことがあり、石川由希先生には『遺伝子から解き明かす脳の不思議な世界』の「第4章 昆虫の脳」を、石川麻乃先生には『遺伝子から解き明かす魚の不思議な世界』の「第7章 様々な淡水環境に適応進化したトゲウオたち」を担当していただいた。
今回のプログラムはこちらから見られるが、プログラムからだけでは分からない、各発表者の研究で扱っている生き物への熱い思い入れ、研究で得られた成果の驚きと醍醐味、それを共有する楽しさを実感できる価値多い会であることを、参加者は感じていたのではないだろうか。
次回の拝聴も楽しみにしたい。