文豪の作品、特にロシア文学では寄生バチ・狩りバチの解説がよく設けられるというのは有名だ。
実際、トルストイも下のようにハチに触れている。
「幸福な家庭はどれも似ているが、不幸な家庭はそれぞれ異なった形で不幸である」『アンナ・カレーニナ』より
そんなわけはない。引用はハチとは無関係です。すみません。
これを引用したのは「第12章 竹筒のなかの小宇宙」の筆者。竹筒に営巣する母バチだが、子は多くの場合、天敵により失ってしまうという「不幸」を紹介したものだ。
この章では、竹筒トラップをつかって森林で調査をつづけてきた筆者が、筒状の空間に好んで巣を作る「管住性ハチ」と彼らをめぐる虫たちの世界をじっくり解説している。
登場するのは、オオフタオビドロバチやハムシドロバチの仲間、ヤドリバエの一種、スズバチネジレバネといった面々。その描写から垣見られる竹筒のなかは、「小宇宙」と称される。
その利用の仕方もさまざまで、ヤドリバエの一種(Symmorphomyia katayamai)は「ハチが狩るハムシに幼虫を産み付け」、母バチが巣に持ち帰ったあとに「そのハムシから抜け出し、せっかく母バチが蓄えたほかのハムシを食べてしまう」。これは「さながらトロイの木馬である」と筆者が言うのもうなずける。
さらに、「餌(獲物や花粉)を目当てに寄生する労働寄生者」、「クモに産んだ卵を破壊したのち、自らの卵と置き換える」など、それぞれ個性的な方法が描写されている。
また母バチに見つかった際、「アルマジロのように丸まって身を守るという」セイボウ科の防護方法は印象的だ。
さらに、ダニが登場してくると話はさらに広がってくる。
「ハチの巣にうっかり入り込んだ迷子ダニ、ハチがためたエサを盗むダニ、ハチの幼虫に寄生するダニ」など、「ハチの体に無賃乗車して」やって来たダニたちの、研究者だけが知っている暮らしぶりが紹介される。
章の後半ではドロバチの飼育方法(飼育ケージの作り方、餌の採集)も解説。
「ハチを飼っているというより、ハチに飼われている」という言葉の通り、飼育に苦労する様子が収録されている。
竹筒のなかで描かれる微小なハチたちの生死の物語。「小宇宙」と言うのも大げさではないハチの世界。本章を含めたこの本の完成は2020年前半。