昆虫が非常にたくさんの種がある理由には、それだけ多くの種を生む工夫があったようです。
なかでも「交尾」というスタイルは、直接に、精子をメスに渡せるスタイル。
しかし、そればさまざまな昆虫の形態や生態によって、たくさんの方法が見られます。
⑴カゲロウのアクロバティックな交尾姿勢
有翅昆虫類の中でも、原始的な系統であるカゲロウの仲間では、メスがオスの背面にのる(図3)。といっても、この交尾は非常にアクロバティックなもので、飛翔しながらおこななわれる。オス成虫たちは群飛しながらメス成虫を探し(カゲロウのオスの眼は、通常の向きのものに加えて、上空を見やすい上向きの眼もキノコのようについている)、見つけるとメスに比べて非常に長い前脚でメスの翅基部にひっかけ、柔軟な腹部を上へ折り曲げて腹部の末端側にあるハサミ状の把握器でメスの腹部を下側からつかみ交尾する。オスの陰茎(ペニス)は左右一対、つまり2本あり、メスの生殖口もまた左右一対となっているものもある。ヒトでも精巣や卵巣は左右一対あるが、カゲロウの輸精管や輸卵管は一本にまとまらず、直接、一対の生殖口へとつながっている仕組みである。
⑵トンボによるハードな交尾姿勢 もう1つの原始的な有翅昆虫類グループであるトンボの仲間では、やや間接的な精子の受け渡しが認められる。オスの生殖口は腹端側にあるが、ここから直接メスの生殖口へ精子を渡すわけではない。オスは腹部の基部近くに副性器をもち、一旦、生殖口から精子を副性器へ移す。その後、オスがメスを確保すると腹部末端にあるハサミ状の把握器でメスの頭部あるいは胸部をしっかりつかむ。メスは腹部を前方へ折り曲げて、生殖口のある腹部末端をオスの副性器にくっつけることによって交尾が成立する(図4)。この交尾の姿は独特であり、オスとメスとでハート形を形成するため、とても良い絵となる。ただ、オスがメスの首根っこをひっつかまえて交尾しているというなかなかハードな状況であるとも言えるかもしれない。交尾時間は種によって異なり、数秒のものから6時間弱かかるものもいる。交尾後も、オスはメスをつかみ続け、産卵するまで解放しないこともある。解放せずに一緒につながって飛んでいるところ(タンデム飛行)は、皆さんもよく目にする光景だろう。
⑶ゴキブリによる交尾の成功に向けた戦略 トンボのような変わった交尾ポジションもあるが、カゲロウのようなメスが上位となるポジションが祖先的な交尾姿勢とされ、進化を通してさまざまな交尾姿勢になったとされる。カゲロウと同様の交尾姿勢をとる昆虫としては、例えば、コオロギやキリギリス、ゴキブリ、シラミ、シリアゲムシ、ノミの仲間など意外と多い。しかし、メスが上位の交尾姿勢だと、メスが自由に動いてしまい、なかなか交尾が成立しないことも多いのか、ゴキブリでは、オスの背側からメスが好む分泌物を出すものがいる。メスをオスの背側へとおびき寄せる作戦だ。メスがオスの分泌物を食べている間に、背側にあるセンサーのような毛でメスとの位置を確認し、生殖器を結合させる。一旦、結合させてしまえば、メスが動こうが関係なく(振りほどかれないようにつながっているのは大変そうだが)、お互いそっぽを向きながら交尾は完了する。
⑷カカトアルキによる発展途上(?)の交尾姿勢 また、さまざまな昆虫グループで独立並行的にオスが上位の交尾ポジションとなる進化が生じきた。しかし、カゲロウの交尾と同様、生殖器の結合位置が変化していないため、オスのポジションを変化させても変な体勢となる。なかには、メスの外部生殖器および腹部は上位であるものの、オスが自身の腹部を捻ることで結果的にオスの頭部・胸部が上位になるような昆虫も多い。なかなか体の柔らかい交尾姿勢をとるものもいる。なんとか交尾をやり遂げようと、オスがメスを抑える、あるいは一緒に動けるようにメスの上にのることを選んだのだろう。
⑸カマキリによる命をかけた交尾 カマキリでは、交尾中にオスがメスに食べられてしまうことがある。生殖器の結合が起こっていれば、オスの頭は食べられてしまっても、交尾行動を完了させることができ、オス自身の体はメスの栄養となり、次世代のために使われることになる。しかし、オスの方も交尾をせずに食べられてしまっては死に損である。オオカマキリでは、メスの方がオスより大きな体であり、産卵を控えるメスは貪欲に獲物を見つけては食事をする。オスはメスが食事などをしている隙をついて、背後から忍びより、腹部のみを捻って生殖器の結合を成功させる。この時、メスに見つかってしまっては、ただの餌とみなされてしまうが、メスに食べられることなく交尾を完了させ、すばやく逃げるオスもおり、このようなオスはまた別のメスを見つけて交尾に挑むだろう。
⑹ガガンボモドキによる怪奇な交尾姿勢 それに対して、ガガンボモドキでは、オスがメスに餌をプレゼントしながら交尾する(別項目ですでに説明)。メスが餌を食べている間にオスは交尾する。その際、オスはメスと反対方向を向いて交尾するグループもあるが、なかには顔と顔を合わせながら交尾するものもいる。顔と顔を合わせながらというのは、抱き合っているようで、なかなか様になっているが、オスの腹部は縦軸に約180度捻られた状態となることもある。
「昆虫クイズ! オナガバチからの挑戦状」
ハチはいつ生まれ、どれくらい種類がいるのか? コマユバチが寄生相手に注入する毒の効果は? 寄生バチが特に発達させたのは、産卵管ともうひとつは?
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