(この記事は2020年6月8日に一色出版メルマガとして配信したものです)
一色出版のサイトでは、定期的に昆虫などの記事をアップしています。
その中で特にアクセス数の多いものに、「昆虫と脳」をテーマにしたものがあります。
寄生バチや狩りバチの不思議な習性、
またミツバチやアリたちの利他的ともみえる行動をみると、
一体、脳の仕組みはどうなっているのか、と考える気持ちもわかります。
今回は、昆虫の脳の特徴を3つ取り出し、
紹介しみようと思います。
(今回は『遺伝子から解き明かす脳の不思議な世界』上川内あづさ、石川由希「第4章 小型でハイスペックな脳の獲得」をもとにしています)
おはようございます。
一色出版の岩井峰人から、
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その1:極小の脳
人間や他の動物と比べても、特に小さな体をもつ昆虫たち。
このようなサイズの中に、そもそも脳があるのかという疑問もありますが、
頭部にある神経の塊が脳と呼ばれているようです。
よく研究されているショウジョウバエの脳をみてみましょう。
その脳の大きさは、
縦300マイクロメートル、
幅600マイクロメートル、
奥行き200マイクロメートル、
となります。
ややわかりにくいかもしれませんが、
コピー用紙の厚みにたとえると、
縦・横・幅はそれぞれ3・6・2枚ほどになります。
では、この極小の脳の中で、
どのようなことが起きているのでしょうか。
人間と同じように
学習や記憶が成り立っているのでしょうか。
その2:共同生活を成り立たせる学習や記憶
学習や記憶を支えるものに、
キノコ体と呼ばれるものがあります。
これは昆虫の脳の上側にあって、
文字通り、キノコのような形をしたものです。
この部分が学習や記憶に関わっていることがわかっています。
特に顕著なのが、ハチの社会の成り立ち。
原始的なハチとされるハバチ、
その次に進化したコマユバチ、
さらに進化したスズメバチなどは、
キノコ体のある部分が段階的に獲得されてきたようです。
ちなみに、このキノコ体のある部分とは、ケニヨン細胞と呼ばれます。
この細胞を段階的に獲得することによって、その行動にも変化が出てきました。
・ケニヨン細胞が1種類のハバチは、単独で行動し、植物食
・ケニヨン細胞が2種類のコマユバチは、単独で行動し、寄生する
・ケニヨン細胞が3種類のオオスズメバチは、巣を作って共同生活し、肉食
このように、段階的にケニヨン細胞が獲得されることによって、
脳で処理できる情報の種類や量が格段に増えたとされます。
ミツバチをはじめ、ハチ・アリ類の脳が発達しているというのはよく知られていますが、
他の昆虫ではどうなのでしょうか。
シロアリの場合をみてみましょう。
(シロアリはアリとは離れた系統の昆虫)
その3:性格を決める脳の中の物質
シロアリもミツバチと同じように、
カーストという分業制が知られています。
そのカーストの中に、兵隊アリがいます。
このアリは大アゴと毒腺といった武器をもち、
外敵に勇敢に立ち向かいます。
最近の研究で、シロアリの脳の中の、
チラミンという物質の量によって、
攻撃的な性格になるか否かがわかってきたようです。
つまり、チラミンの量が多いシロアリほど、
攻撃的になるのです。
試しに、普段は攻撃しない臆病なシロアリに、
このチラミンを投与すると、
「積極的に外敵に攻撃するようになった」とされます。
これとは逆の現象もあるようです。
どういうことかというと、
勝負に負けた個体は、著しく攻撃性を低下させるというものです。
これによって、コストの大きい戦闘という事態を避けて
生き残りができる、「動物の基本的な生存戦略」とされます。
「敗北のトラウマ」という名で知られているようです。
このような攻撃性の低下にも、脳内の物質が関わっています。
たとえば、オクトパミンという物質が多く放出されると、
攻撃性が上昇します。
映画『ラストエンペラー』には、コオロギを戦わせるがありますが、
コオロギでも、このオクトパミンが攻撃性をあげることが知られていました。