自分が男であった場合、もし自分が女であったらどのような人生を送っただろう? 自分が女の場合、もし自分が男であったら、と考えたことはありませんか?
映画「君の名は」など、男女が入れ替わる物語は古今東西いくつもあり、やはり多くの人が気になるテーマと思います。
では、こう想像することはできないでしょうか。
自分の左半身が男、右半身が女。もちろん人間ではこのようなことは起きません。でも他の生物、鳥や昆虫では起きることがわかっています。昆虫が好きな方はクワガタやチョウでこのようなことが起きているのを見たことがある人もいるでしょう。
でも人間の場合にはこのような雌雄混在は起きることはありません。それは鳥・昆虫と人間との間で、性の決まり方が大きく異なっているためです。
では人間はどのように性が決まっていくのでしょうか。他の生き物とどのようなところがちがうのでしょうか。
(以下の内容は『遺伝子から解き明かす不思議な性の世界』をもとに紹介)
性を決める遺伝子 SRY遺伝子
そもそも人間の性はどのように決まるのでしょうか。その秘密のひとつに、遺伝子があります。SRYという遺伝子が性を決めるのに決定的な役割を持つことが知られています。
この遺伝子は「身体をオス化(男性化)するための遺伝子」です。どこにあるかというと、Y染色体という染色体の中にあります。
では、この遺伝子を持っていさえすれば必ずオスになるのでしょうか? 答えはノーです。脳の細胞、肝臓の細胞などに持っていても、オスになるとは限りません。ではSRY遺伝子がどこにあるとオスになるのかというと、それは生殖腺を作っている細胞にあるとオスになります。
「セルトリ細胞(オスの生殖腺を作る細胞)こそが性を決める(正確にはオス化に必須の)細胞である」(第1章 雌雄はどのように作られるのか)
オスの生殖腺とは精巣のことであり、精巣からは精子ができます。SRYを持っていると精子を作るようになり、一般的にいうところのオスになると言えるでしょう。
生殖腺が精巣になるとそれに続いて全身の男性化が進み、精巣にならなければ自動的に女性としての発育が進むことになります
「第8章 ヒト」より
胎児の中で、精巣か卵巣かどちらになるかまだ決まっていない生殖腺においては「精巣を作る遺伝子グループと卵巣を作る遺伝子グループとがせめぎあっています」。
ここの中でSRY遺伝子の有無によってどちらかのグループかが優勢に働くようになり、SRYがあると精巣のグループが優勢になってオスになります。
男女の全身の性を作っていく遺伝子
精巣か卵巣かが決まったあと、その性に従って全身の男性化または女性化が進んでいきます。その進行をざっと簡単に見てみると、以下のように4つのステップを進んでいきます。
①男性の場合、妊娠4ヶ月頃から出生直後、そして思春期以降に男性ホルモン(英語ではアンドロゲン)が作られ、女性では女性ホルモン(エストロゲン)が作られます。
②ホルモンが結合する「ホルモン受容体」が作られます。
③性ホルモンを作るためには、脳から分泌されるゴナドトロピンと呼ばれるホルモンが必須で、これが作られていきます。
④体が生殖可能なまでに成長すると精子と卵子が作られます。これを作るための遺伝子が作られていきます。
さらに詳細にみると多くの仕組み、物質が複雑に連携しながら性が作られ、または維持されています。
人間以外の生き物の性の決まり方
では人間だけがこのような性の決まり方をしているのでしょうか。普段の生活の中でも、多くの生き物に日常的に接していると思います。朝からゴミ置場にカラスがいたり、近くに猫が歩いていたり、電車待ちの時に虫が飛んできたりと、多くの生き物に目が触れますが、みんなオスメスという性を持っています。
これだけ多種多様なのに、同じ性の決まり方なのでしょうか。
人間のように遺伝子によって性が決まる場合も多くあります。人間を含む哺乳類がそうですし、両生類、鳥類、昆虫もそうです。
一方で遺伝子でなく、爬虫類のように生まれる前の気温によって決まる生き物もいます。例えばミシシッピワニは32〜34度ではオスが生まれますが、28〜31度ではメスが生まれます。
変わっているのは魚の場合です。魚と言ってもたくさんいますが、ここではメダカを例にします。
メダカでも哺乳類のSRY遺伝子のように生殖腺で働く遺伝子の有る無しによって性が決まります。ただ魚の場合はDMY遺伝子と言います。これがあるとオスに、ないとメスになります。
ただ魚の場合、生殖細胞の数や他の遺伝子との複雑な関係を持ちつつ性は決められます。特に魚は性転換を自由に行うことがありますので、多様な性決定の仕組みを持っているようです。
まとめ
近年、人間の性について関心が高まってきています。その際、人間社会のなかの性、ジェンダーに触れられることが多いです。現代の困難な問題のひとつですが、生き物としての性を正しく、科学的に見直すことでその解決のきっかけになることも少なくないでしょう。
様々な生き物の性の決まり方、維持のされ方の理解を通して、人間の性をより深く理解することに繋がるでしょう。