19世紀のロシアにはいわゆる知識人が形成されたが、たとえばニコライ・チェルヌイシェフスキーやニコライ・ドブロリューボフ、ドミートリー・ピーサレフといった「革命的民主主義者」の知識人が心身二元論を批判し、身体の健康や鍛錬を重視していたことが、ソ連やロシアのスポーツ史の教科書ではしばしば強調されている。また、スポーツに最も積極的な関心を示した知識人と言えば、文豪レフ・トルストイであろう。彼は乗馬を好み、自転車を練習し、ダンベルで体を鍛え、家族とともに水泳やテニスを楽しんだ。人間は本来、運動や肉体労働をする生きものなのだとトルストイは主張し、身体と精神を切り離すことができないとやはり考えていた。1877年に刊行されたトルストイ『アンナ・カレーニナ』には、競馬の障害物競争やテニス、スケート遊びが描写されている。