イングランドでの本大会で北朝鮮は見事な活躍を見せる。一次リーグは第4組でソ連、チリ、イタリアと同じ組となり、ソ連には3対0で敗れたものの、チリと1対1で引き分け、最後にイタリア戦を残していた。圧巻はこのイタリア戦であった。北朝鮮チームは絶対的に不利であると目されたこの試合を見事覆し、イタリアを1対0で破ったのである。ワールドカップ史においてアジア勢初めての勝利である。この試合で得点を決めたは北朝鮮の英雄となった。またこの勝利は全世界に衝撃を与えた。常にヨーロッパと南米のみがサッカー強国であるという世界の共通認識であったサッカー界に一石を投じる結果をもたらしたのである。
決勝リーグではポルトガルに5対3で敗れたものの、ワールドカップベスト8という北朝鮮は、韓国を国家をあげたサッカー振興へと駆り立てた。韓国の諜報機関であるKCIA(大韓民国中央情報部)の下で「」というサッカーチームが組織され、韓国の全域から優秀なサッカー選手が集められるのである。国の威信がサッカーを通じて示されることを認識した政治的判断の結果であったと言っても過言ではない。当時の東西冷戦のなかで北朝鮮サッカーが朝鮮半島に与えた衝撃は尋常ではなかったことが分かる。