2020年2月1日に東大・本郷で「日本蛾類学会2020年総会・研究発表会」のあることを知ったのは、アカウント名「たぬきやままゆhttps://twitter.com/tanukiyamamayu」というtwitter上。
現在、制作進行中の本『チョウとガの不思議な世界』のことも気になっていたところで、編者の矢後先生と神保先生ももちろん来られるだろうし、その筆者のみなさんも演者に加わっていることがわかり、開始時間より少し遅れたものの、理学部2号館へ向かった。
ところで昨年の9月、目黒の国立科学博物館でおこなわれた「日本蛾類学会2019秋の例会https://www.isshikipub.co.jp/2019/09/29/heterocerists/」に参加したときは、席数に限りがあったという事情もあるが、入室時にはすでにほぼ満席。空いている席を探すのに時間がかかったのを思い出した。
今回はもっと席数の多い、4階の講堂で、わりと空席もあるかとタカをくくっていたが、扉を開けるとほぼ満席。すぐ横はむし社さんの出展のあるすぐ脇の席、最後尾の空席に着席したのは、15時頃だった。
壇上を見あげれば、『チョウとガの不思議な世界https://www.isshikipub.co.jp/science/butterfly-moth/』の筆者の1人でもある新津修平先生の発表の最中。
ガードレールに営巣するミノムシの採集方法を紹介しているところで、グーグルマップを利用し、ミノムシのいそうなガードレールをいかに効率的に探すかを楽しそうに伝えている。
ミノムシ博士が感じるガの魅力とは?
日本人にはわりと親しみのあるミノムシだが、出版物で言えば、絵本など子供向けの本はあるものの、科学的読み物はあまりない。ミノムシのことを少し掘り下げた出版企画を意識しつつ、今回は、20年以上ミノムシ(ミノガ )研究に携わる「ミノムシ博士」新津先生に、ミノムシの「不思議」「魅力」「研究の醍醐味」をめぐる話をお聞きした。
–今日はご講演を有り難うございました。本の原稿と違うのは当然ですが、かなり柔らかい感じで紹介していましたね。
新津先生:そうですね、今回は自分の専門のアカデミックな内容というよりも、あまり一般には知られていないこと、採集方法などを中心にして、啓蒙活動につながればと、学会エントリーしました。
–お話の最中には、聴講者からの笑いも結構ありましたね。失礼かもしれませんが、そういうのはあまり得意でないのかなと思っていたのですが。
そういうの(笑いのある話題)は得意ではなかったのですが、学生相手に話す機会が多くなってきて、100人以上の前で話すようになってから、みんなに聞いてもらえる「お作法」もできるようになってきました。
–そもそもミノムシ、ミノガ を研究対象にするきっかけ。子供の頃から興味あったのでしょうか。
小さい頃から好きというわけではなく、大学入ってからですね。大学ではあまり研究室には顔をださず、外に虫採りに行っているのが好きでしたね。なかでもフユシャクガが好きで集めていました。
–そのガからミノガ に興味が移っていったと。
はい。とはいっても指導教員から「ミノムシ研究してみない?」と言われたのがきっかけで、自分から研究に入っていったわけではなかったです。受動的な理由ですね。
–ただ、昔から虫は好きだったんですよね。
それはそうです。大学は東京農大だったのですが、大学選びも「昆虫を扱えるところ」という理由でした。
最初はチョウ集めに熱心でしたが、ガを調べるようになってからは、自分の凝り性いという性格もあって、のめり込んでいきました。
–では、当時も今も、ガのどのようなところが魅力と感じていますか。
まず「種数が多い」ということです。同時に、「未解明なことが多い」ということ。ここにロマン、強い魅力を感じて、ということが主なところですね。
なぜ、翅がなくなったのか?
–今現在は、どのようなことに興味がありますか。
なぜ、「翅がなくなったのか」ということです。それに、なくなったことの発生学的メカニズムです。これを通じて、基礎生物学的な、普遍的な現象の解明につながるのではと思い、続けていて、これが長年のモチベーションの維持にもなっていますね。
–ところで東京農大というと、やはり農業科であり、害虫益虫の研究というイメージがありますが、ミノガ とのつながりはあるのでしょうか。
東京農大の昆虫学研究室は、分類学をしていたので、農林業との関係だけでなく、わりと自由に研究テーマを選べるようになっていました。教員が手取り足取り教えるという感じではないので、当初は自由にテーマを探していました。
–これから研究者を目指す人たちへの言葉などありますか。
昆虫という分野でいえば、割と身近な環境に昆虫はいるので、目に入る昆虫からテーマの着想を得ていくのがいいんじゃないかなって思います。
それに加えて、「面白そうだな」って思えるものを探し、自発的に自分で手を動かしていくっていうのが大事です。
それは研究に限らず人生ということでも大事なスタンスと思っています。
–今回の講演で紹介されたように、自ら調査に出かけるのも大切なことですかね。
はい、もちろん。調査や採集が進まなければ研究も止まってしまいます。それらは研究の基本だと思っています。
–採集はご自身1人で行くことが多いのですか。
そうですね、人と行くこともありますけど、基本的には1人で行きます。妻は研究者でもガが好きなわけでもないのですが、一緒に行って手伝ってもらうこともあります。
–自宅で飼育もされているのですよね。
冷蔵庫にミノムシを入れて……
そうです、冷蔵庫にミノムシを入れて、(擬似的に)越冬させる飼育もしています。妻にはなるべく、ひんしゅくをかわないように気を使っていますが。
–ガに対して「気持ち悪い」というイメージを持っている人も多いですが、先生から見てガ自体の魅力はなんでしょうか。
繰り返しになりますが、「未解明な部分が多い」ということに、すごく魅力を感じています。そこに探究心を掻き立てられるので、特にフォルムや模様が地味であっても、楽しめるかなと思っています。
–ガというのは他の昆虫に比べても、未解明な部分の多いグルーブなのでしょうか。
んー、難しい質問ですが、このように蛾類研究会などでは盛んに議論されているとは言え、研究者が比較的少ないことが指摘できます。それに近年、若い研究者がたくさん育っているとは言えない状況です。そんな現実ですので、解明がなかなか進まないというところでしょうか。
–最後に、今後の活動テーマは、どんなことでしょうか。
世代性別問わず、ガに興味をもってもらうように、引き続き、ミノガ 、ミノムシを中心に研究して、発表していきたいと思っています。
–今回は有り難うございました。
新津先生の講演ののちは、綿引大祐氏(栗山町教育委員会 自然系学芸員)によるオオベニモンアオリンガに関する講演、神保氏によるオハイジロハマキとハイジロハマキに関する講演、『チョウとガの不思議な世界』の筆者の1人那須義次氏によるメイガ科に関する講演などが続いた。
今回のタイミングで『チョウとガの不思議な世界』が出版できればベストだったが、今夏前、5月頃になりそうだ。
ただ4月頃に『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』(前藤薫・編)が出版になりそうで、また予定がはっきりしたらお知らせしていきたい。
今回お邪魔した日本蛾類学会は、
「1953年、杉俊郎、杉繁郎、井上寛、星野昌哉の4人で蛾類同志会として発足しました。 杉俊郎さんの死後、1960年に会名を日本蛾類学会と改名し現在に至っております。発足当時からアマチュア主体の学会でしたが、プロの研究者と一緒に日本の蛾界の発展のために貢献してきました。」
と、現会長 岸田泰則氏の言葉に示されている通り、プロアマ問わず、知見を共有しようという姿勢が感じられる会。
聴講者を見て感じるのは、女性の比率が比較的高いこと。
ガやイモムシ・ケムシに魅力を感じる人の多いことが見て取れる。
むし社さんのバラエティ豊富なグッズを見ても、幅広いファンのいることがわかり、今後もガやチョウ研究の動向に注目していきたい。