(この記事は2020年5月18日に一色出版メルマガとして配信したものです)
前回のメルマガで、
寄生バチの巧みな寄生方法を紹介しました。
これに寄せられたコメントに、
「面白い!」というものがありましたので、
さらに続編を紹介していきたいと思います。
ハチたちの寄生の妙が、より一層見て取れるかもしれません。
おはようございます。
一色出版の岩井峰人から、
メルマガをお届けしています(年中無休、毎週月曜の更新)。
今回も、『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
の中から紹介したいと思います。
まず一つ目は、
虫こぶを作るハチに寄生するハチ。
まず、虫こぶとは、その名のとおり「虫が植物につくる「こぶ」のことを指す」
(第3章 虫こぶをつくる寄生バチ」井手竜也より)
その代表的な虫が、タマバチという寄生バチになります。
虫こぶの種類は形や色が豊富にあり、
寄生バチの種に応じて、さまざまな虫こぶが作られています。
ハチが虫こぶを作る理由は大きく2つあるようです。
・えさの確保
・天敵からの防御
しかし、天敵から防御といっても、
寄生バチの攻撃から完全に逃げることはできないようです。
寄生バチ特有の長い産卵管を使って、
タマバチに寄生をしかけるためです。
ただし、タマバチに寄生するのは、異なるグループの寄生バチだけではなく、
同じタマバチ科のハチも寄生します。
彼らは「イソウロウタマバチ」と呼ばれ、
文字通り居候(いそうろう)するハチです。
彼らの場合は、寄生といってもいわゆる寄生バチとは異なり、
雌バチは他のタマバチが作った虫こぶに、
自らの卵を産み付けます。
ふ化した幼虫は、同居人であるタマバチ幼虫を捕食することはありません。
その代わり、同居人のえさと空間を奪うことによって、
結果的に同居人を殺すことになります。
木に寄生するタマバチ、
その同グループの他のタマバチに寄生される
寄生関係の妙が垣間見られませんか。
居候という形で同居人を殺し、
自分は安全に成長するイソウロウタマバチは、
「寄生が巧みなハチ」に挙げられるのではないでしょうか。
二つ目は、有剣類からの紹介になります。
寄生バチのほとんどが寄主を殺さずに、
活動できるままの状態で、寄生します。
ただし、有剣類の場合は「基本的には、寄生性は殺傷寄生」となっていて、
寄主は麻痺してほとんど動けなくなります
(「第11章 剣をもった寄生バチ」三田敏治より)。
その中でも、カマバチは有剣類では珍しく、
寄主を生かしたまま食す、飼い殺し寄生をします。
主にはウンカ、ヨコバイに寄生することが知られています。
カマバチの産卵場所は、寄主の腹、背中など、
種ごとに分かれているようです。
なかには、頭部と胸部の継ぎ目という、
かなり無茶な場所にも寄生するものもいます。
幼虫は成熟すると、「寄主の中身だけをみごとに吸いつくした」あと、
土中や植物上で繭を作ります。
このカマバチの最たる特徴は、名前の通りカマを持つこと。
カマは雌だけが持ち、寄主をとらえるのに最適化されています。
例えば、木の芽に擬態してじっとしているヨコバイには、
カマブトカマバチの小さなカマでしっかりと捕らえられます。
一方で、長く発達したカマを持つツヤクロトゲヌキカマバチは、
よく飛び跳ねるヨコバイを捕らえられます。
ハチには珍しいカマを装備し、それぞれ寄主の特徴に応じてカマを利用する
カマバチは「寄生が巧みな寄生バチ」に加えられるでしょう。
三つ目は、木に寄生するキバチに寄生するヒラタタマバチです。
ヒラタタマバチは
「タマバチ上科の中では祖先的な一群」とされます
(「第9章 キノコとキバチと寄生バチ」藏滿司夢より)。
このヒラタタマバチが寄主を探す際に手がかりとするのは、
キバチに共生する「菌のにおい」です。
例えば、ヒラタタマバチの寄主であるノクチリオキバチは担子菌の一種
(Amylostereum areolatum)と共生関係にあるとされます。
ノクチリオキバチは、木に産卵する際、この担子菌も接種して、
培養させます。
担子菌が接種され2週間ほど経つと、キバチ幼虫がふ化し、木の奥へと移動しようとします。
この時に発するにおいに最も敏感に反応して、ヒラタタマバチは産卵します。
ノクチリオキバチの母バチは、自分の子どもが、木を食べやすくなるよう共生菌を注入するのに、その共生菌のにおいを利用して寄生するヒラタタマバチ。
寄主の寄生方法を利用するノクチリオキバチは、
「寄生が巧みなハチ」にふさわしいでしょう。
『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』表紙が完成しました。
ハチ、寄生の印象際立つものができましたのではないでしょうか。