(この記事は2020年5月11日に一色出版メルマガとして配信したものです)
寄生バチと呼ばれる最たる理由が「寄生すること」であることに、
異論のある人はあまりいないと思います。
この寄生の仕方にも多くの方法が知られていて、
この豊富な手段が寄生バチの多様化につながった大きな理由と
されているようです。
今回は、『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』(前藤薫編著、2800円+税、360ページ、5月末刊行)の中から、
最も巧みな寄生方法3選を紹介したいと思います。
おはようございます。
一色出版の岩井峰人から、
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3選の一つ目は、
強力な捕食者であるクモに寄生するハチ、
クモヒメバチをあげたいと思います。
メスは産卵の際に「クモの脚が届かない場所」に卵を産み、
しかも、クモの種によって「卵の向きも厳密に決まっている」とされます。
(第5章 クモヒメバチ、松本吏樹郎・高須賀圭三より)
このような巧妙なテクニックで寄主をとらえるクモヒメバチに、
ニッコウクモヒメバチがあげられます。
「植物の枝上に張られたクサグモ類の棚網に飛び込んで(図15)、
獲物と勘違いして飛び出してきた寄主を逆襲する。」
捕食者であるクモに対して、
自らを囮にしてとらえる様子をみると、
巧妙さというより、
もはやカミカゼになぞらえられるかもしれません。
また、クモは網を作る際に、
粘りけのない「支持糸」を設けています。
これをつたって、クモは網の上を自由に移動できます。
せっかくクモが自分専用につくった支持糸を、
そのクモをとらえるために利用するのが、
マダラコブクモヒメバチです。
オオヒメグモに寄生するこの寄生バチは、
上記の寄生方法の他に、
・粘らない網の中ほどにとどまってクモを待ち伏せ
・糸を脚で振動させてクモをおびきよせる
といった寄生方法もバリエーションとしてもっています。
寄主の習性におうじて方法を使い分けるクモヒメバチは、
「大胆かつ巧妙」な寄生バチと言えるでしょう。
寄生バチは、ほとんどの昆虫とクモに寄生すると言われますが、
その寄生対象は陸生に限りません。
3選の二つ目は、「川の中の大きな石の上に、
小石で作られたトビケラの巣」
に寄生をこころみる、ミズバチです。
(第4章 アリとトビケラ、小西和彦より)
メスは「飛びながら空中からニンギョウトビケラの巣を探し」、
見つけると石をつたって水中に入っていきます。
多くの寄生バチがにおいを手がかりに寄主を探すのに対し、
ミズバチは視覚を使って探すことが特徴のひとつです。
巣にたどり着いたメスは、「十分な大きさの巣だと産卵管を刺してみる」。
ここでは、単に巣のなかの寄主の有無を探っているのではなく、
「巣の中にいるのが幼虫だと産卵をとりやめ、
前蛹か蛹であることが確認できると産卵する」
とされます。
他に、ヒメバチにも水中の寄主に寄生する種もいますが、
それらはにおいを手がかりにしているので、
ミズバチの視覚をもとに探索する方法は大きな特徴と言えるでしょう。
しかし、このようなミズバチの習性は「どのように進化したのか、
まったく分からないまま」のようです。
いずれにせよ、
水中という、寄生するには難易度が高いところに、
あえて寄生するミズバチの寄生方法は、
「巧妙な寄生バチ」という名にふさわしいでしょう。
3選の三つ目は、同じく小西教授が紹介している
アラカワアリヤドリバチ。
その美しい姿態に惹きつけられますが、
「アリヤドリバチ亜科の最大の種」とされる、
大型の寄生バチという一面ももっている寄生バチです。
寄生バチには長い産卵管を利用して、
植物のなかや繭のなかの寄主に寄生する種が多く知られています。
じっくりと寄主を探し、
さらに幼虫なのか、前蛹か蛹か、
探ってから産卵する種もいます。
しかし、この種の特徴は、
瞬時に産卵を完遂してしまうところです。
寄主のクサアリが幼虫を運んでいると、
「近くをホバリングしていたアラカワアリヤドリバチがサッと近づき、
一瞬のうちに産卵がおこなわれた。」
アリという有剣類に寄生するのは危険が多いですが、
(クサアリは常に大アゴで威嚇しているようです)
働きアリが幼虫を運搬するタイミングで、
威嚇行動を回避しながら瞬時に産卵します。
危険をかえりみず、
限られた時期を狙って産卵するのは、
「巧妙な」寄生方法と言えるでしょう。
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『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』
(前藤薫編/350ページ/2800円+税)
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なお、ハチたちの綺麗な写真が手元にたくさんありますが、
紙の本ではモノクロで掲載になると思います。
巻末のパスワードをつかったオンライン版では、
綺麗なカラー写真、動画も視聴できますので、
本を買った際には、オンライン版を利用することを、
お勧めします。
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